春の夢

カラスの鳴く声がした。嫌な予感がした。

 

恐る恐る振り返ると、黄色。

どこまでも続く黄色。

 

 


黄色というのは恐ろしいもので、何かに差し色として入っている場合はリズミカルで幸福の匂いがする。

でも、ひたすら黄色が続く世界は、絶望だ。

私の本能は状況を飲み込むよりも早く絶望を悟った。

 

風がない黄色の街をひたすら、歩き続けた。

景色は変わっているようで、変わらない。

 

 

目はつむったまま。

 


太陽の光が瞼を通じて黄色になるのに吐き気を催しながらも、逃げるように、求めるように歩き続けた。

 

 

 


スズメの鳴く声がした。風の匂いがする。

ぼんやり開く視界に映るのは、

天井。光。毛布。手。

 

急いで枕元のiphoneに手を伸ばした。


10.25。
ああ、夢か。

照明を落とした部屋に、風と光を含んだカーテンがなびきながら、うららかな春の匂いを運んでいる。現実って、あまりにも間延びしている。

 

大きなあくびをすると、大きな風が吹いた。

風に急かされるよう、起き抜けの重い体を引きずってキッチンへと向かう。
うすはりのグラスを取り出しジンジャーエールに氷をいっぱい入れて、炭酸が抜けないようにゆっくりと注ぐ。檸檬を絞る。

古い自分への慰めでもあり、新しい自分への栄養でもある。


黄色に疲れた起き抜けの空虚な体に染み渡るのが黄色であることにいささか絶望しながらも、この世界には風が吹いているし別にいいか、なんて思う。